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人間になりたくない、ということ

「信じられないこと…ばかりだ…」

「人が信じられることは、そう多くはありません。そう…みな、自分自身のことですら、信じられないのですから…」

「…あなたの言うとおりだ。オレは、散っていった仲間たちから、近い場所にいたいと願いながら、その実、遠く遠くへ遠ざかろうとしていた。どうして、あなたにはわかった?」

「同じだからです。私は、何も選ばず、現実から最も遠いところへ行こうとしていた。私は、あなたを求めていたのかもしれません。誰かに、聞いてもらいたかったのかもしれません。私の…罪を。」

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Simoun 第23話 - 永遠の少女 / ユンとオナシアの会話より

Simounは、私の中で「もっともっと評価されるべきアニメ」第一位に挙げられるほど、人格形成に大きな影響を与えたコンテンツの一つだ。

人はみな、女として生まれ、17歳になったら泉へ行き、性別を選ぶ。

この場面設定だけで、私の興味を惹くには十分だったが、それ以上に示唆に富んだ内容と、最高の音楽が詰まっているので、人々には絶対に見てほしい。サントラが欲しかったら私の物理アバターに問い合わせてくれれば貸し出しますので、ね。

…話を戻そう。あ、少しネタバレかもしれないので、必要な方は予習してからまた読んでください。

作中では、性別を選ぶ前の「少女」達にしか扱えない「シムーン」と呼ばれる謎の機械が存在する。その世界で、空を自由自在に舞えるのは「シムーン」だけだったために、その圧倒的優位性が彼女達の国の柱となっていた。しかし、技術が進み、他国も空を舞う技術を手に入れ始めたことから、彼女達は大人達の戦争に巻き込まれることになる。なぜ「シムーン」に乗り込み「神に祈りを捧げる」のか、自らの性別を「選びとる」のか「選ぶことを強いられる」のか、「選ぶ」ということ、「選ばない」ということ、そしてその代償。そういったテーマがこの作品の根底には流れている。

さて、私はこの週末にカウンセラーの先生に「私って多分人間になりたくないんだと思います」と伝えることに成功した。以前であれば、こういった思考を言葉にすること自体が難しかったので、それ自体は大きな進歩だ。

なぜ、大人になりたくないのか?大人とはなにか?では一体何になりたいのか?

「私は、選ばないことを選んでここにいる」と、作中で発言したキャラクターがいる。私はこの言葉が大好きだ。矛盾、しかし、明快。

大人になるということは、選ぶということである、と私は思っている。進路、日々の買い物やご飯、パートナー、将来の計画。

そういったことが、私は嫌いだ。それは過去の私が「選択肢を与えられてこなかった」ことに要因があるのだろう。

しかし、今の私の目の前には、否応なく大量の選択肢が転がっている。そして、それは日々増えてゆく。

選ばなければ、生きられない。選ばなければ、死んでゆく。それが、この世界の宿命。

でも私は、できる限り抗いたい。多数派の惰性に飲み込まれるよりも、それを変える力を持てるように。

はたして、できるだろうか?その代償に、耐えられるか?

もう既にいっぱい選んでしまった。私はもう、シムーンを飛ばせないだろう。

そんな中途半端な私でいること、地に足をつけたくないということ、でもこの世界の重力からは逃れられないということ。

そういう意味で、私は人間になりたくない。たとえ、既に手遅れだとしても…。