/sys/hikalium/tracing

hikaliumのデバッグに役立つ情報が取得できます

ネタバレ感想「The MISSING – J.J.マクフィールドと追憶島 –」

「ある少女は、身体がバラバラになるとわかっていながら、何度も何度も歯車に向かって飛び込んでいきました。一体なぜでしょうか?」

-- 夕食の席で同僚にウミガメのスープを出題するhikalium

しばらく前から知人におすすめされていたゲームがある。

「The MISSING – J.J.マクフィールドと追憶島 –」というのがそのタイトルだ。

youtu.be

ちなみに最初に断っておくが、このゲームは結構グロテスクなシステムを採用しているので、そういうのが苦手な人は、何も見なかったことにしてページを閉じるのをおすすめする。

一方で、このゲームは本当に、本当によくできている。どう良くできているかを述べるためにはネタバレが避けられないので、もしも未プレイで興味が出てきた人は、とりあえずクリアしてから続きを読んでほしい。

もし少しでも興味があって多少グロテスクな表現があっても大丈夫という方は、ぜひ一回、最後までやってみてほしい。PS4, Switch, Steam, Xbox Oneのいずれでもプレイできる。

私はあまりゲームをちゃんとやらない側の存在だが、このゲームに関しては、始めて3日間くらいで蒐集要素も含め完全にクリアするほど、相当な時間を削ってのめり込んでしまった。それだけの労力をかけて、摂取する価値のある作品だったと、私は思う。

ちなみに、このゲームの起動時には、こんな言葉が表示される。

この作品は、

すべての人々が自分自身であることを否定しなくても良い

という信念のもとに作られています。

……とてもよい言葉だと思いませんか?

以降、ネタバレを含む

まず、あらすじレベルの話をしておく。

主人公の J.J. は、行方不明になった親友 エミリー を探すために、追憶島というダンジョンを進んでゆく。

ステージには随所にギミックが仕込まれているが、最大の特徴は「自らの身体を引き裂くことが求められる」ゲームシステムになっている、という点だ。

主人公は、ダメージを受けると身体が徐々にバラバラになっていく。最初は足が取れ、次は腕がなくなり、最後は頭だけになってまで、前に進んでゆく。頭だけの状態でダメージを受けたらゲームオーバーだ。

頭だけの状態までバラバラにならないと進めない場所もある。自分に燃え移った火をつかって、障害物を燃やさないと前に進めない場所もある。首を骨折すると世界の上下が反転するので、それを利用して進むステージもある。そして、時にはちぎれた自分の腕や足を重しにしたり、投げ飛ばしたりしないと進めないギミックもある。ちょっと慣れるまでは毎度身体を引き裂かれるJ.J.の叫び声を聞く羽目になる。(痛みを、感じよう!!!)

というわけで、冒頭で出題したウミガメのスープの答えは、そういうゲームシステムだったから、というのがひとまずの答えになる。

さて、このゲームシステムだけでも、私は非常に感激したが、この作品の真の良さはこれだけにとどまらない。

主人公が自らを傷つけてまで追い求めるものとは?

ゲームの冒頭では、主人公 J.J. にとって、エミリーがいかに大切な存在であるかが描かれている。満天の星空のもと、肩を寄せ合うふたり。そんな平和な時間が、突然の雷鳴とともに終わりを告げ、エミリーはどこかへと去っていく。

どうしてエミリーは消えてしまったのだろう?と多くの人は不思議に思いながら、その答えがあると信じてゲームを進めていくわけだが、最終的に、行方不明になっていたのはエミリーではなく、J.J. 本人だったことが明らかになる。しかし、それは単に物理的に行方不明になっていたわけではない。

J.J. は、あまりにも私によく似ている。早くに父親を亡くし、規範に従うことをよしとする母親に拘束され、周囲からはそこそこ頼られる存在で、人間関係も表面的には良好。しかし、ひとつだけ、大きな秘密を抱えていた。それは、「私」という存在、そのものだった。

誰もボクのことを理解してはくれないでしょう

友達も ママも 親友も

みんな優しくて ボクの味方になってくれるけど

それでも 誰も本当のボクを理解してくれません

 

そもそも 理解するのは 無理なのかもしれません

 

他人と違うことが こんなにも苦しいなんて

もしかすると この先

大人になったら希望があるかもしれない

先生はボクにそんなことを話してくれました

 

でも もう限界です

たった19年の人生を生きるだけで

こんなにも苦しいのだから

この先 何十年も

これに耐えて生きていく自信がありません

 

ボクは 今日 赤い翼を使おうと思います

どこまでも飛べる 真っ赤な翼を

 

ごめんね ママ

ごめんね エミリー

この、J.J. の遺書と取れる文章を読んだとき、私は、本当に驚いた。そして、ほっとした。ああ、私以外にも、同じことを考えていた人が、いたんだなあ、と。

私が書いたそれは、さすがにそれは遺書ではなかったが、その趣旨は完全に同じだった。当時のブログ記事が、ここにある。

(ついに、私と彼女をリンクさせる日が来るとは、ね…)

rui86.hatenablog.jp

rui86.hatenablog.jp

それは、残酷な現実を私に突きつけてくる。

友人も、親でさえ、そして親友でさえ、誰も本当の自分のことを理解してはくれないということを。

大人になることが、希望ではなく、絶望である、ということを。

耐えられない、身を引き裂かれるような苦しみに、押しつぶされそうな叫びが、そこにはある。

時計台のシーンで、エミリーの幻影は J.J. にこう問いかける。

「あたし達……セックスするために生まれてきたの?」

この疑問を抱くこと自体が、許されない、そんな雰囲気のこの世界。

再生産することが期待され、そしてなにより、再生産されたからこそ、ここにいる私。

逃げることが許されない、最初からその環に組み込まれて逃げられない、私。

そして、その尺度の中で対極に位置される属性で、バラバラに引き裂かれる、私。

そう、このゲーム、THE MISSING で失われていたものは、他でもない、自分自身だったのだ。

「探しものは見つかった?もう、なくしちゃだめだよ」

J.J. が一体何を探していたのか、それがはっきりしてからは、F.K. のいうところの「フッカツとサイセイのものがたり」が始まる。

降りかかる痛みと苦痛、他者から理解されない苦しみを乗り越えて、

そんな悪夢から「逃げ出そう」とした、自分自身に打ち勝って、

身を引き裂かれるのではなく、逆に自ら身を投げうって、

そして雷鳴とともに、稲妻が身をつらぬいて、

J.J. は目を覚ます。

救急隊員が持ってきた、AEDの電撃によって。

現実は残酷で、ここまでプレイヤーが見てきた J.J. は、そこにはいない。

いや、そうじゃない。J.J. は、そこにいる。

ずっと、そこにいた。

「もう、なくしちゃだめだよ?」

エミリーは、そう J.J. に言うと、二人は互いに抱擁し、ゲームは幕を閉じる。

…いや、やっと幕が開いたのかもしれない。彼女たちの、そして私たちの、それぞれの失われたジブンを探す旅が。

感想

このような作品が存在している世界で、本当によかったと思う。

まだ、この世界も捨てたものじゃないかもしれない。もうすこし、ここにいてもいいかもしれない。

そう、思ってもいいのかもしれない、と信じさせてくれる作品でした。本当にありがとうございます。


私にも、エミリーみたいな存在が、いてくれたらよかったのに。

参考

ゲームの作者 SWERY 氏のインタビュー記事・動画

game.watch.impress.co.jp

youtu.be

youtu.be

youtu.be

他の方の感想記事

youge.hatenadiary.jp